矯正治療におけるポイント
抜歯か非抜歯か
矯正治療のカウンセリングをしていますと、この質問が大変多くあります。
これは、矯正学における「ディスクレパンシー」と言う考え方に始まります。
例え話として「100坪の敷地に30坪の家屋を4件建てることは出来ないので、1件は建築しないのと同じ事」と言うことになります。
こういう例え話では、敷地をもう20坪造成すればどうなの?と言う疑問もあることになります。
となると、果たして20坪の敷地の造成が可能なのかどうかを考える必要があります。歯槽骨が敷地になるわけですが歯槽骨の構造は
のようになっており、唇側と言うのか頬側と言うのか、こちら側の敷地を拡大する必要があります。この歯槽骨の拡大が可能かどうかと言うことになります。
逆に考えて見ましょう。なぜこの敷地が小さくなったのでしょうか?それ歯はの生える位置が作用しています。歯槽骨の成長に歯が大きく影響を与えることになります。では、歯を移動させれば骨が成長するという話が単純に可能です。そこで骨は何歳でも成長するのか?となるのですが、ある程度の成長が可能です。
これが抜歯か非抜歯かの答えになります。しかし臨床的には個人差が出てきます。
- 歯並びの問題です。
- 期間的な問題です。
- そして骨質などの問題も加味されます。
抜歯か非抜歯かの議論もあるようですが、このような基礎的な要因のうえでの議論や説明が必要となります。
矯正治療による様々な副作用
矯正治療による副作用についてのお話は医学的な問題よりも社会的な問題で複雑です。直接的な副作用の話は、刺激的なので、少し視点を変えてお話を進めます。
矯正治療のメリットは何かと言うことをまず見てみましょう。
大学の教科書(歯学生のために歯科矯正学)から
歯列・咬合の異常に起因しうる障害
| 生理的障害 |
咀嚼作用の困難 |
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咀嚼能力の低下 |
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発音障害 |
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顎発育のゆがみ |
| 病理的障害 |
虫歯 |
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歯周組織疾患 |
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顎関節症 |
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外傷 |
心理的目的
矯正歯科治療の目的
矯正歯科治療は歯列と咬合の異常によって起こりうるあらゆる生理的、病理的、心理的障害の除去と予防効果を目的として行われる。すなわち、矯正歯科臨床では、咬合の成長発育を管理し、発育途上のあらゆる段階における総合咀嚼機関の機能と健康をもっとも望ましい状態に保持し、最終的に各個人に最高と考えられる機能的、形態的永久歯咬合を誘導し、それによりもたらされる口顎系器官の健康と長寿を目標とする。
とあります。
具体的な副作用を記してあるものはほとんどありません。よく言われるのは局所的な副作用でしょう。歯根の退縮や歯根の歯槽骨からの突出などがあります。これらについては多くの情報があるでしょうから省略しておきます。
ただ、歯体移動を基本とするマウスピースタイプではこのような局所的副作用はほとんど軽減することが出来ることだけにしておきましょう。
問題は全身的な副作用です。このことは話し出すときりがないので、簡潔に述べておきたいと思いますが、
顎口腔系からおこる悪いストレスをDDSとなりますが、人為的に作られるDDSと
して注意が必要なのがこの矯正治療と言うことになります。
一つの症例をご紹介しますと、この女性は現在22歳、現症は
- 扁頭痛・肩こり・背中の痛み
- 生理痛・生理不順
- 手足の痺れと冷え性
- 慢性的な疲労感
- 肥満傾向 等が基本的なものです。
以下での検査・診察では異常と認められる所見はありません。
治療歴は 小学3年生より矯正治療での初期治療を受け、顎外装置での治療が主なものでした。中学生になり固定式ワイヤータイプの治療を始めています。上下左右の4番の抜歯高校2年まで治療が継続し現在に至っています。当院への来院は後戻りが主訴でした。
ここまでが主訴に基づく問題点です。
後戻りのことについては次項でお話しますが、歯根吸収と歯槽骨の退縮傾向が見られます。これはこれまでお話してきたことでご理解いただけると思います。
さて、これからがなかなか悩む問題です。
現在の体調について、正常とは言えません。ある意味では原因不明の疾病状態と言えます。
さて、では何が原因なのでしょうか?病歴などをたどってもこれと言う原因を見つけることは、以下でも我々でもできませんでした。残るのは二つで、一つは胎児から幼児期にかけての何らかのホルモン及び脳神経におけるトランスミッターのトラブルが原因なのか、遺伝的な障害が成長と共に読み出されてきたのか、もう一つは矯正治療と言うことに絞ることが出来ます。しかし保護者のお話や状況から前者は考えにくいことになると、残るは矯正治療と言うことになるわけです。
矯正学の教科書を見てみましょう。生体反応の項目にはどの本にも以下のように
※矯正的刺激による全身的環境への影響
歯の移動を行うとき、矯正的刺激が全身的環境に及ぼす因子となり、その因子に対して生体の防御機構が働くのである。刺激が生体のある部位に加えられた場合、生体は2つの作用によって影響を受ける。一つは特異的な作用で、刺激を直接受けた局所に生じる組織的及び代謝的な変化である。他の一つは人食い的な作用で、刺激が作用することによって生じるもので、しかも決まりきった全身の反応である。この人食い的な全身の反応を汎適応症候群と呼んでいる。
その機構は、刺激(ストレス)が生体に作用すると、まず視床下部で副腎ホルモン萌出因子が作られ、これが脳下垂体に働き、脳下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンが分泌される。このホルモンは副腎皮質を刺激して、主に2つの副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド、コルチゾル)を分泌する。この現象は非特異的であり、どんな種類のストレッサーによっても副腎皮質の分泌が増加し、副腎中のアスコルビン酸量が減少する。(これはストレス学説の説明になります)
矯正装置の力が弱いと生体反応も少なく短時間に回復する。装置の力が強いと生体反応は大きく回復するのに長時間を要する。これは臨床的に考えると、歯の移動に必要な力の範囲内で可能な限り緩慢な力を用いることが肝要である。
と言うことが記されています。
詳しくは述べませんが、矯正力が原因であるということは高い可能性があります。
治療法については省略します。ただいえることは単純に咬合論をこの治療に持ち込んでは、複雑化するということです。科学の基本に従い治療計画を立てることが必要でしょう。
一つの例をご紹介します。詳しい話は頭が痛くなりますので、簡単にお話しすると、副腎皮質ホルモンは、上記されているように、視床下部、脳下垂体、副腎と言うHPA軸で機能しています。グルコルチコイドの情報のセンサーは海馬といわれる場所だといわれています。海馬がこのホルモンの情報を視床下部に伝えて調整しているということです。
さて、ベトナム戦争での長期戦闘従軍兵士の調査では、戦闘ストレス症候群からこの海馬が極端な場合、26%も減少していたという報告があります。一方、培養上ではグルコルチコイドに晒された細胞は死に至るということが確認されています。
あるストレスが長期的に継続した場合、グルコルチコイドが高いレベルで推移し脳内細胞の機能低下を引き起こすということは十分に考えられることです。このストレッサーとして矯正力が働いているのではないかとの仮説が成り立つことになります。
仮説です。わかりやすい仮説といえます。でも実験的実証がされているものではありませんのでご了解ください。ではこの仮説がある程度正しいとすれば、どれほどの矯正力が適切なのかと言うことになります。同時に一方ではそれほどのことがおこる可能性があるのに、なぜ矯正治療を行うのかと言う疑問も出てきます。
矯正治療をしない場合の将来における様々な身体的負担の可能性があります。例えば審美性という問題もこの中に入ります。審美性は人の意欲に言い換えればドーパミンの分泌に影響を与えます。大変重要な要素です。矯正治療による副作用と、しない場合による影響を天秤にかけることになります。一番いいのは副作用を出来るだけ抑えることでしょう。ではどの程度の矯正力が副作用を起こさないのでしょうか?答えは個人差があるということになります。ラットでの研究では、生後すぐの母親の子供へのケアーにより、このストレスへの感受性が違ってくるという報告があります。
個人差をどう読むかが重要になります。
話を少し変えてみます。
顎位言い換えれば咬合と全身との関係が過剰に語られる傾向があります。(この原因は我々にもあることも事実で、反省しています)顎位の異常がなぜ慢性疾患を引き起こす一因となるのでしょうか。自律神経・内分泌・・・色々といわれています。では本当に顎位が関係しているのでしょうか?顎位がこのHPA軸などに影響をしているとしたら、大変面白いといえば語弊がありますが、興味深くなります。
このあたりは、話が複雑怪奇になりますので、省略しますが、今後の研究が進むのを期待したいと思います。
後戻り(リラップ)について
これも良くご質問されるお話です。
後戻りについての矯正学の教科書を見てみましょう。
保定の概念
保定とは不正位置にあった歯や顎を適正な位置に移動した状態を保持することであるが、さらに進んで矯正治療後の形態や機能の安定を積極的に誘導し、将来の咬合機能の維持を図ろうとする動的な意味を含んでいる。
矯正治療後、装置を除去すると再びもとの不正状態へ後戻りする傾向がある。治療前の不正咬合の状態は歯と歯周組織の均衡がそれなりに保たれており、矯正治療によって歯や顎を新しい位置に移動させることは均衡を崩すことになる。そのために、再発を引き起こす。そこで治療後の安定した咬合機能を得るためには、新しい環境に順応するまで色々な方法により保定しなければならない。
さらに治療後の安定した咬合機能を維持するためには新しく排列された上下顎の歯の咬頭嵌合はもとより、正しい咀嚼運動の獲得が重要であり、また悪習慣の不正機能の改善さらに顔面や咀嚼筋の順応が得られるまで一定期間の保定が必要である
このような意味のことが多くの教科書に記載されています。これが保定の考え方ともいえます。
我々は矯正の専門家ではありません。変なストレス屋と思ってもいます。しかし我々から見ても、首を傾げざるを得ない表現をいくつか上記の文章から見ることが出来ます。少しピックアップしてみましょう。
→確かに古い均衡を崩すでしょうが、新しい均衡は誰が作るのかと言う疑問が出てきます。保定装置が均衡をどのようにして再構築するのかも疑問です。
また新しい環境にどのようにして保定が順応させるのでしょうか。顎機能などの順応はどのようにして出来るのでしょうか?歯根膜の問題はあります。しかし歯根膜も含めて歯周環境の再構築は保定よりも、正しいかみあわせ様式が優先すべきでありこの概念には疑問が多くあるように思えるのですが。
次にプロフィトと言うアメリカの矯正の大家の本を見てみましょう。彼の「現代矯正歯科学」には以下のように記されています。
※保定・悪帯保定後の安定性については膨大な数の文献があり、最近それらの妥当性について考察を加えた論文が発表されている。
長期の保定に影響を与えるものとして多くの要素が引用されている。
次の3つの理由で保定は必要である。
- 歯肉・歯周組織が再組織化するための時間が必要である。
- 歯は治療後固有の不安定な位置におかれている可能性があり、そのための軟組織により加えられる力が絶えず再発をもたらす要因として作用する
- 成長により引き起こされる変化は矯正治療結果に変化をもたらす可能性がある。
この中で、Bは大変重要といえます。
@については、これゆえに絶対的に保定が必要なのかどうかは疑問の残るところでもあります。歯肉繊維は矯正治療によりリモデリングを生じています。このリモデリングは4〜6ヶ月ぐらいで再組織化を完成します。また、歯槽骨繊維のモデリングのスピードは大変緩慢であり1年ほどかかる場合があるとされ、その間元に戻ろうとする力も継続します。
プロフィトは、この軟組織に対する保定で、こうまとめています。
1.潜在的な再発の方向は、治療完了時での歯の位置をその元の位置と比較することにより知ることが出来る。歯はもとの場所に向かい移動する傾向がある。これはまず第一に歯肉繊維が後戻りするように引っ張るためであるが、また治療完了以後に加えられる咬合の働きによるものである。
2.包括矯正歯科治療で装置を撤去した後の最初の3〜4ヶ月は基本的には終日に渡る保定が必要であろう。しかし歯根膜繊維の再組織化を促すためには咀嚼中に強い咬合力に反応し歯槽骨がたわむように歯は個々に自由に動揺できる状態になければならない。
3.歯肉繊維は反応が遅いため保定は少なくとも12ヶ月間は行う必要があるが、保定期間後3〜4ヶ月を経過したならば終日の装着をしなくともよい。12ヶ月で成長のすでに終わった患者では保定をとめていい場合がある。正確に記すと、その頃には咬合状態は安定していなければならない。
このプロフィトのまとめにはほぼ同意できます。ただ終日必要かどうか、咬合状態の安定とはどういう状態なのかに疑問が残ります。
ただ問題はこのプロフィトの意見にある問題ではないことが多いようです。成長が完了し、そして軟組織の問題ではない後戻りがポイントです。
基本的には咬合様式の問題といえるでしょう。アングルの正常咬合を一つの基準として治療を求めるのはいいのですが、アングルの正常咬合はあくまでも見かけ上の噛み合せ様式であるといえます。
噛みあわせは動的なものであり、静止状態のアングルの正常咬合では解決できない問題が多々あると言えます。もちろん見かけ上のアングルの正常咬合は一つの基準として重要ですが、それ以上に重要なのは動的な噛みあわせ様式の中の歯牙の排列といえましょう。
このあたりは、アメリカの矯正専門医と話す中でも意見がかみ合わないことがあります。 フィールドが異なるというとそれまでなのですが、どちらの意見がいいのか悪いのかは別にして矯正治療における咬合や噛みあわせに問題は今後より研究が必要な要素であると思われます。
我々がこの後戻りについての保定を実際の臨床上では、
- ある一定の期間マウスピースを軟組織の再構築のために装着してもらう
- その後は月数回のマウスピースの装着を1年間行う
(保定装置が一年間保障している原因はこの点にあります)
- その後、必要に応じてマウスピースを装着してもらう。
治療終了後の一定時間、確かに特に歯槽長の弾性繊維のリモデリングには時間が必要なわけですが、歯牙の咬耗などによる咬合の安定もまた必要であるという考えをします。
同時に、咬合が変化すれば歯牙の移動もまたありうると思われます。咬合の変化は単に口腔の顎の問題だけでなく、身体の因子も含まれます。その変化に対応することは必要不可欠であるといえます。咬合の、噛みあわせのメンテナンスは長期的に行う必要があります。
この項では矯正治療においての質問に多い3つのことについてお話をしてきました。
再度確認しておきますが、我々は矯正の専門家でなく、認定医と言うほどの立場ではなく単なるストレス屋でしか過ぎません。また、上記の中の仮説は、俗に言うエビデンス(実証)されたものでないこともあります。基礎研究を基本とした、臨床への論理的な実証にしか過ぎません。判断はお読みいただいた方にお任せする事にします。
医院トピックス
上海診療所
上海での診療 矯正専門での診療を現地の診療所との協力のもとで始めました。
夏から当医院で研修をしていた周先生が治療を行います。
また日本からも月数回日本人歯科医師が上海に出かけ、特に、日本人の方を対象とした、歯科矯正治療を行います。
診療時間と診療内容が変わりました。
小児歯科・小児矯正・矯正歯科に特化しています。
2006年1月より、MSCJデンタルクリニックは,これまでの一般歯科診療を基本的には取りやめ、小児歯科、小児矯正、幼児矯正、成人矯正、成人プチ矯正の5内容に限定しています。
この変更は、ひとつは小児歯科の減少による専門的な受診機会がお子さんたちになくなりつつあること、同時にストレスに関してよりいっそうの問題がお子さんたちに生じていることが上げられます。
従来の小児歯科とは出発点は多少とも異なるわけですが、ストレスフリーを基本とする同時に神経系・内分泌系と顎口腔系の関係を専門とする我々の独自の小児歯科へのアプローチをしてみたいと思います。
また、育成矯正の適用年齢はいくつですかとの問い合わせも多く、基準を明確にするために、就学後の小児矯正と就学前の幼児矯正に分けてみました。
矯正治療は出来るだけ早いほうが良いと、申し上げてきましたが、就学前での簡単な治療で、多くが改善方向になります。これはあくまでも一つの目安であり、就学前に始めた場合、就学後にも延長して矯正治療が必要な場合もありますが、それは幼児矯正の流れとして、対応してゆくことになります。
プチ矯正治療
新たにプチ矯正をクリアラインを用いて開発いたしました。これは補綴治療のための少数歯矯正も含まれます。クリアラインを利用しているための、取り外し可能であり、ほとんど負担のない少数歯矯正です。